AMBIVALENCE

2020/06/02 09:00



♠︎


突撃命令の笛が一度だけ短く鳴った。

二郎は隠れていた茂みから飛び出すと、一目散に敵陣、大将のいる天幕を目指して走った。

他の9名の選抜隊士も遅れを取るものかと駆け出している。


天幕の手前には、槍を持った門兵が二人いた。

一晩中、寝ずに警護を続けてきたのだろう、動きは遅い。


何より、いきなりこの少人数で奇襲をされるとも思っていなかったはずだ。

特に13歳の小僧が竹槍を片手に走ってきている姿には驚きを隠せない様子に見えた。


驚いた顔が目に入った瞬間、二郎は手に持った竹槍を門兵の一人の首筋の鎧の隙間に突き立てていた。

鈍い音と衝撃が、手に伝わる。


「うっ…」という短い呻き声を漏らしてうずくまる門兵の腰から刀を奪うと、それを返す刀にもう一人の門兵の兜を割った。

ガツンと痺れるような痛みが手に残る。

門兵は頭から血を流して崩れ落ちた。


大きく息を吐くと、折れた刀を捨て去り、叩き切ったばかりの門兵の大刀と脇差を手に取る。

一瞬で二人の門兵を叩き伏せた二郎を残り9人の隊士は驚いた様子で見ていたが、ふと我にかえると天幕の中へと駆け込んでいく。


「何者だっ!」


天幕の中で騒ぎが起きた。


二郎は、最初の飛び出しとは逆に、じっと天幕の様子を見つめた。

武器や鎧がぶつかる音とともに怒号が飛び交っている。

こちらの奇襲隊士9名に対して、おそらく天幕の中の敵兵は20名程度。

精鋭を集めたというところでは、多少人数的には不利でも形勢は五分となりそうだ。

となると…


二郎は再び意識を集中する。


と、暗闇に混じり、天幕から移動する人影が見えた。


寝装束とはいえ、明らかに立派な衣服を着た人物が一人、それを守るように鎧武者が前後に一人ずつ。


(あいつだ!!)


自分が狙うべき大将首だと悟った二郎は、すでに次の行動に移っていた。

暗闇と喧騒に紛れ、俊敏さを活かして鎧武者の死角から近ずくと、首筋にさっき手に入れた脇差を突き立てる。

ガシャりと大きな鎧の崩れる音がして、大将が振り向いたところを一閃。

目を見開いたままの大将首がぽとりと地面に落ちた。


「貴様ーーーー!」


先頭を警護していた鎧武者が振り返り、刀を抜くと、大上段に振りかざして二郎に迫ってくる。

二郎は、その鎧武者に向けて脇差を投げつける。


ギンっという硬い音が響いた。

鎧武者が刀で脇差を叩き落としたのだ。

だが、その瞬間、二郎の大刀が鎧武者の太ももを一刀していた。

バランスを崩した鎧武者が草の上に転がり落ちるよりも早く、二郎は大将首を抱えて走り始めていた。


今回の奇襲で難しいのは、大将首を上げることではない。

むしろその後、この最前戦からどう生きて帰るかの方だった。


天幕はすでに多くの兵士に包囲され、こちらの騒ぎにも気がつかれているように見える。


二郎は今まで潜んでいた天幕の裏手の茂みの方ではなく、真逆へと走り始めた。


いくら暗がりを逃げたとしても、あの数の追っ手が来たらとてもじゃないが逃げきれない。

それより、二郎は活路を本陣の正面に求めた。

自分の読みが間違っていなければ、今頃残りの90人の隊士たちが、正面突破の陽動のため、本陣先頭に切り込んでいるはずだったのだ。


「敵襲!!敵襲ー!皆、本陣中央に向かわれよー!」


大声で叫びながら、中央に向かう兵士の流れとは逆方向へ、二郎は一目散に走った。


何人かの敵兵が、二郎の異変に気がつき、追ってくる。

もうダメか、と思ったその瞬間、馬に乗った赤備えの騎馬が駆けつけ、迫り来る敵兵を一蹴してくれた。

100人隊の大将を務めていた武士だ。


真紅の甲冑を纏った大将が、馬の上から声をかけてきた。


「二郎!大将首だな!手柄だぞ!!」




つづく


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